乳がんの治療

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乳がん治療

これまではまず手術を行い、それから再発予防のための薬物療法(化学療法、ホルモン療法)を行う方法が普通でした。薬物療法が進歩した現在ではホルモン反応性やHER2遺伝子の発現状況、Ki-67(MIB-1)による増殖能を調べて個々の患者様に最適な薬物療法(化学療法・ホルモン療法)を行ってから手術を行うことが増えています。

化学療法を行った場合腫瘍が半減する確率は9割です。化学療法だけでがんが消失することはもはや珍しいことではありませんが、以前は考えられなかったことです。術前療法は腫瘍の増減が目に見えることで適正な薬物療法を施行できますが、何より乳房温存率が向上しました。 術後の放射線治療は基本的に乳房温存手術の場合とリンパ節転移の数が多かった場合に行います。

薬物療法

手術や放射線によって乳房局所のがんは取り除けても、がんは血管やリンパ管を通って全身に広がっていることがあります。手術後に再発を防ぐ目的でそのような検査ではわからない小さな転移巣に対して薬物治療を行うことを術後療法といいます。術前療法では再発防止に加えて乳房温存率や整容性の向上などが目的になります。

薬物療法には化学療法(抗がん剤)とホルモン療法があります。術後療法をどのような場合にどのように行うのかについてはさまざまな研究を基にした国際的な合意がありますが、新しい知見・新しい薬剤の登場により常に進化し続けています。

遠隔転移がある場合、薬物療法の目的は延命や生活の質の維持だとされています。一方、術前化学療法により2割程度の確率でがんは完全に消失しますが、化学療法だけでがんが消失したことが驚きをもって発表されたのは乳がん治療の歴史から見ればつい最近のことです。従ってたとえ遠隔転移があっても、条件によっては治癒(=非常に長いがんの消失期間)を目指すべきではないかと私は考えています。

化学療法(抗がん剤)

乳がんは抗がん剤が比較的良く効くがんのひとつであり、化学療法は重要な治療の柱です。ほとんどの場合一時的な完全脱毛をきたしますが、副作用を抑える薬剤が次々と開発されており、もはや必ずしも苦しい治療ではありません(人により異なります)。すべての患者さんに行うわけではなく、がんの進行度・年齢・持病・ホルモン療法の有効性などを考慮して行わない場合もあります。

乳がんの化学療法には標準的な治療があり、いくつかの抗がん剤を組み合わせて行います。

ホルモン療法

約70%の乳がんは女性ホルモン(エストロゲン)がその成長に関わっています。そこでエス トロゲンの生成を抑制したり(LH-RHアゴニスト・アロマターゼ阻害剤)、働きを弱めたり(抗エストゲン剤)することで乳がんを抑制・消滅させることができます。乳がん組織を調べてエストロゲン受容体陽性と診断された場合にはホルモン療法を行いますが、有効性は化学療法に劣らず、重要な治療法です。副作用も化学療法ほど強くありません(女性ホルモン低下による顔面紅潮やのぼせなどの更年期症状、骨粗しょう症などがありますが必ず起こるものではありません)。

手術

手術は乳房温存術と乳房切除術に大別されます。術前療法と乳房形成術の進歩により多くの場合乳房温存術が可能になりました。

乳房温存術

乳房温存術の適応条件はいろいろありますが一番のポイントは「過不足の無い手術を行った場合の乳房の整容性」でしょう。切除断端にがんがないことが求められますが手術中に顕微鏡で調べること(術中迅速病理診断)で安全(がんの取り残しがない)かつ正常組織を取り過ぎない手術を行っています。

皮膚切開も乳輪縁や乳房下端などの目立たない部分で行っているほか、欠損部にはわきの下などから皮下脂肪を移植して手術前と変わらない乳房の形成を心がけています。

乳房切除術

乳房温存術の適応から外れる方、温存術を希望されない方には乳房切除術を行います。通常胸の筋肉(大胸筋・小胸筋)を残しますが、片側の乳房全部がなくなる手術です。乳房再建のご希望があれば形成外科を紹介しています。

乳房内で乳がんは主に乳腺の中を広がっていきます。乳頭を取る必要が無ければ乳腺だけを全部切除して(乳腺全摘術)、前述の脂肪移植で乳房再建を行うことが可能な場合もあります。乳頭が残せなくてもある程度のふくらみを残せる場合もあります。

センチネルリンパ節生検

乳がんの手術ではわきのリンパ節も一塊に切除しますが腕がむくんでしまう後遺症が残ることがあります。そこで超音波検査などでリンパ節転移がないと術前に診断された場合にはがんが最初に転移するはずのリンパ節(見張りリンパ節・センチネルリンパ節)を手術中に見つけだし、がんの転移がないと確認されれば以後のリンパ節切除を縮小または省略してリンパ浮腫が起こらないようにしています。センチネルリンパ節の検出には色素法と私が前任地で開発に関わったICG蛍光法を併用しています。

がんの転移があれば通常のリンパ郭清を行いますが、リンパ浮腫を起こさないよう前述のICG蛍光法を応用して残すべきリンパ管の温存に努めています。